山梨大学医学域へのご支援・ご寄附について
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2018/9/14(金)
1981年以来、日本人の死亡原因の1位は癌です。統計上は半数以上の方々が、生涯のうちに癌に罹患するとされています。
癌というと不治の病との印象もあるかもしれません。しかし、最近では新しい診断・治療法の開発により、治癒する例も増えてきました。
私たちは「正常な細胞がどのようにして、悪性の性質をもつ癌細胞に変化するのだろうか?」という学術的な問いを念頭に置きつつ、癌の新規治療法開発につながるような基礎研究を進めています。
私たちの身体の中には非常に多数の細胞があって、お互いに連絡を取り合いながら、生命活動を維持しています。例えば、身体の中のどの細胞も、基本的に周囲から指令を受けなければ、細胞分裂して増えることはできません。しかし、癌細胞は自分勝手に細胞分裂しますし、身体の中を移動して他の臓器に行ってしまうこともあります(これが転移です)。もっとも、癌細胞といえども、栄養分や酸素を自給している訳ではなく、血管からの供給に頼っています。また、癌細胞は、もともと正常だった細胞が遺伝子変異により性質を変えたもので、別世界から侵入してきたものではありません。したがって、一緒に暮らしていた人の性格が変わって横暴になり、食費も光熱費も入れず、しかし家にあるものを勝手に飲み食いし、電気・ガス・水道は使いたい放題という状態に喩えられるかもしれません。
それならば、社会の約束事を無視して勝手な振る舞いをする癌細胞は周りから疎まれて孤立しているのでしょうか。驚くなかれ、癌細胞は周囲の正常細胞に働きかけて、その性質を変化させることが知られています。こうして、正常細胞の一部を仲間に引き入れ、自分にとって居心地のいい場所を作り始めるのです。癌細胞の仲間にされてしまった正常細胞は、常に癌細胞から指令を受けながら行動を制約されています。しかし、この指令を断ち切れば、正常細胞が癌細胞に都合のいい振る舞いをすることもなくなります。
ここまで見てきたように、癌細胞の周辺では、細胞間のコミュニケーションに不具合が生じています。この状態を改善することが、癌の治療につながる可能性があります。細胞間コミュニケーションを媒介する物質は数多くありますが、私たちは、その中でもTGF-β(ティージーエフベータ)というタンパク質に注目しています。TGF-βは正常細胞に働きかける時には、癌の発生を抑える作用があります。しかし、癌細胞に働きかけると、自分勝手な性質をますます増長させてしまいます。また、癌細胞が正常細胞に命令する時にもTGF-βを利用する場合があります。そこで私たちは、TGF-βが癌の悪性化を促進する仕組みを明らかにし、これを抑制する方法を開発しようと考えています。
TGF-βの働きの異常は、癌に関係しているだけではありません。アレルギーや肝硬変、メタボリックシンドロームなど、様々な病気につながることが知られています。したがって、TGF-βに注目した私たちの研究には、癌研究にとどまらない波及効果が期待されます。
詳しくは生化学講座第2教室のホームページをご覧ください。生化学講座第2教室のホームページ
※海外の研究者と共同で、TGF-βの機能不全と病気の関係について、本をまとめて2012年にSpringer社から出版しました。